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アニメ『行け!稲中卓球部』で日本外でも知られている漫画 家、古谷実の最新作『ヒミズ』は今までのブラックユーモア満載のギャク漫画スタイルからうって変わり、かなりなシリアス物語、というかもうぜんぜん笑えな い。真っ黒けである。そして彼の作品には意味を求めずには生きられない人間の性分を否定や認知する辛さがいつも思いっきり詰まっている。 『僕といっしょ』には:
といった強烈なツッコミが笑えた、少なくともそんなダメな主 人公の半端ないスットコドッコイぶりがあまりにも非凡であるので読者との距離がある。「こんな奴いねぇーだろー」という防波堤感覚。 が、この『ヒミズ』ではその距離が一切取り払われてしまって いるのだ。よって主人公の悲惨な叫びが読者の心の深層部へ直球で襲いかかる。 『ヒミズ』の帯には「笑いの時代は終わりました....これ より、不道徳の時間を始めます」とあるが終わったのはギャグのみで古谷作品に一貫してある"不公平な世の中に生まれ落ちた負け犬中学生"を笑えないほど真 正面から描いた作品である。以前の作品では「笑う」ことで誤魔化されていていたものが逃げ道なく晒されている。 『稲中』や『僕といっしょ』にも共通するまだ中学生なのにす でに社会の負け組と決定されてしまっているキャラクターという設定は『ヒミズ』にもあり、主人公の住田は中学3年生でこの世の徹底的に冷たい現実:自分は いかに存在理由のない人間であるのかという事を実感しながら生きている。(そして大多数の人間もまたそうである。という事も) 「金メダルをとった人 大企業の社長さん 人の心を動かす芸
術家 発明家 音楽家... とにかく強烈な才能を持った"特別な人間"は世の中にあわせなくていい......免除! なぜならそんな人達は"偉い"か
ら もちろんその人達も自分が偉いからといって甘えず ある程度ちゃんとしなきゃダメだぞ そして偉くない人はなるべく世の中にあわせましょう 上辺だけ
でもいいから」
住田は決してモテない僻みで言っているのではなく、実際彼を 慕っている女の子には結局心を開かない。彼はホレタハレタの恋路に構っていられないほどの虚無感に縛られてしまっているのだ。 古谷作品に出てくる全ての主人公中学生達には親がいない。親 に捨てられたか死なれており、心の底からダメな大人を嫌悪し、そして当然愛されなかった事に対する傷に多大な影響を受けている。愛される事を諦めれば傷つ かないのだが、期待するモノを排除すると生きていく意味まで失ってしまうというパラドックスに落ちる。 住田は、クズとクズの間に生まれ墜ちた為に自分もまたクズに なるという現実に反抗したいかのように平凡でありたいと非凡な執着心に捕らわれている。愛人と逃げた母、自ら撲殺した父を持つ己の人生に決着するべく(意 味への欲求を満たすという痛い自己矛盾かここにある)1年間のオマケ人生を自分に与え、悪人を見つけそいつらが人を殺してしまう前に殺す時間にすることを 決意する。 知り合ったホームレスに「オジさんは自分で決めた自分に対す るルールみたいなモノを何度も破って大人になったのか 自分が15〜16歳ぐらいの頃これをやりたいという夢か何かがあったのか そして今自分で自分を許 せるのか」と質問する。 人当たりの良い気弱なそのオヤジにはそんな難しいことは考え てなかったとかわされる。が、あるシーンで 住田が「友達の話」として打ち明ける自分の状況に対し、その穏和なオヤジが怒りを込めて正論を発する。 「何が無駄な命だ 何が人のタメだ カッコつけるんじゃな
い! お前はスーパーマンにでもなったつもりかって」
又、物語の隙間隙間に彼が見る幻覚の「悪魔」は常に自分に ツッコミを入れる。それは自分に課したルールに対する本音との矛盾を指摘する声だ。 「平和ボケすんなよ テメーの人生なんか とっくに破滅して
んだ
「自分という人間がつまらないだけなのに世の中がつまらんと 言うな」「大した不遇も味わってないくせに自分は不幸だと嘆くな」「弱者ぶるな、弱者ぶって人に守ってもらおうとしたり優しくしてもらおうと思うなよ。ク セになって止まらんぞ」 この声は辛うじて住田を強く生きさせる唯一の支えでもあり、 そして同時に彼を破滅道へ導くささやきでもある。 絶望は文字通り希望が断絶されることだ。たった15歳やそこ らの少年が先進国日本で本当に絶望しているのは単純に与えられるべき人の温かさや衣食住への不足ではない。彼はそれらを含めて社会にあるすべてのレールに 対するどうしようもない矛盾とその不公平に気づいてしまったのだ。気づかなければ何も壊れずそのまま進められる人生なのかもしれないという虚しさも。 講談社ヤングマガジン連載時にあった最後のパネルは単行本に
収められなかった。それは読者の、主人公の、そして作者の笑えないツッコミである。
漫画表現にこれほど見事に現代の空気をにシンクロさせた快作
はない。
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